欧州債務危機 vol.01

欧州経済危機回避のために by 解龍馬

欧州が債務危機に直面する現在、危機回避に向けて何ができるのか?
対策として3つのストーリーを挙げ、そのメリット、問題点などを論じたい

ストーリーその1
ドイツとフランスの共同の財政規律、緊縮財政を重視した対策
財政規律をGDPの3%から1%に引き上げ、各国の国民投票に掛けるという政策は、
金融危機回避、また、金融機関の資本充実のためには、長期的には採られるべき
政策であるかもしれない。しかしこの政策には欧州中央銀行ECBの対策、ユーロ共
同債の発行、が全く考慮されていない。また、金融機関に対して自己資本の充実
が公的な資本注入に頼らない方向で金融の安定をしようとしている。当然ながら
増税と緊縮財政を伴い、「短期」的には経済成長無き財政を破綻させる道になる。
このままではPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)は破綻へ向か
うかもしれない。
ストーリーその2
前述の財政規律の維持は長期的には採用されてもいい政策だが、その政策は現状
のEUマクロ経済の安定にはほとんど効果がなく、逆に経済を壊滅させることにな
るだろう。また景気が後退し、金融危機の予兆があり、民間中小企業への貸し渋
りが生じているときに、金融機関に対して資本充実を求めるのは、この貸し渋り
を助長するだけである。なぜなら、金融機関に対する投資家の不信が蔓延してそ
の株価が暴落する中では、新規の株発行により自己資本比率を高めることが難し
く、従って金融機関の自己資本の充実がなかなか望めないからだ。
そこで「公的機関」による金融危機回避のため、金融機関の新規発行株を引き受
ける形での資本注入が求められることになる。疲弊した金融機関への資本注入は、
どこの国でも一般庶民からの根強い批判があるが、金融機関の破綻による金融危
機からマクロ経済の疲弊、景気後退よりましである。
EUのマクロ経済は、総需要の不足から経済成長率の低下が起きている。またデフ
レ(コアCPIは0.9程)への危機を抱えている。総需要の不足から不況とデフレ
へと向かうことを避けるなら、増税による歳入を上げることを考えるのは、非常
に危険である。なぜなら、増税によって財政の危機が免れた国は歴史上非常に少
ないとされているからである。90年代のカナダ、米国は増税によって財政赤字
を解消したとされるが、その時代は「インフレ」率が高かったときだから財政が
改善したことを忘れてはならない。
税収は名目経済成長率×税率×税収の弾性率で決まる。弾性率は様々な要因によ
って決まるらしいが、それが0より小さくなることはない。よって、名目経済成
長率を高める政策が、もっとも経済的痛み、庶民生活に打撃を与えない最良の短
期的政策となる。そこで財政出動の財源確保のためには、デフレ期、インフレ率
(エネルギー価格、生鮮食品を除いた物価上昇率)が非常に低い時には増税に頼
るのではなく、EUの「共同債」の発行とそれの中央銀行の引き受けなどによって
財源を作るほうが、短期的に経済的痛みを和らげつつ、長期の目標であるユーロ
圏の維持・拡大に貢献するはずである。直感的な数値ではあるが、EUという「先
進国」群では名目経済成長率は4%程に目標設定するべきだろう。
そしてECBとEUを実質的に指導しているドイツ、フランスがこの成長率目標を立
てる。その実践の方策としては、ユーロ共同債のECB引き受けによる財源を債務の
危機の震源地である南欧への公共資本などとして割り当てることが考えられる。
公共投資によって雇用を増やし、産業を民間の力で再興させるのである。ギリシ
ャの国債の金利は、20%以上であるといわれている。ギリシャ国債をECBが直接
購入してもいいから、金利を下げる政策を打つ。ギリシャには、財政規律を守ら
せるような罰則付きの条約を結ぶことである。これが政治的にも難しいのなら、
EU崩壊を覚悟した方がいい。
ECBのバランスシート拡大(つまり債務と資産の拡大)は、ユーロ崩壊を前提とし
ない限り気にしなくていい。バランスシート拡大を恐れては、単一通貨制度ユー
ロの維持、経済崩壊回避という目的は達成できなくなるだろうから、これは本末
転倒の恐れであると言える。
この際、ドイツ前首相のシュレーダーが言ったとされる「ECBは無際限の債務購入
をする意思がある」と宣言することである。
この意思表明を行えば、「市場」に対して非常に大きな安定材料と安心感をも
たらすことになる。ドイツのメルケル・フランスのサルコジがEUの名目の経済成
長率の達成宣言を行い、ECBが頑迷な共同債の引き受けの固辞を辞め、無際限の債
務の引き受けを鮮明にすることである。
政府の名目経済成長率達成宣言付きの財政出動とECBの懸命な共同宣言選択があ
れば、EUは債務危機から短期的に離脱できるに違いない。財政規律の要請はそれ
からでも遅くはなく、また長期的には必須のものである。
ストーリーその3
ギリシャがユーロ圏から離脱することで、ユーロ圏を縮小維持させるストーリー。
これはギリシャがユーロ圏から離脱し、通貨をギリシャ・ドラクマとして独自
採用するという方法である。ユーロ圏から離脱するとギリシャの通貨ドラクマは
暴落し、ギリシャは非常に高いインフレになる可能性がある。庶民の生活は大変
に苦痛を伴うものになるだろう。しかし、01年代のアルゼンチンは大変な苦痛
を味わったが、変動相場に移行して、これ以降大きく復活した。
変動相場制への移行によって、ギリシャの中央銀行はドラクマを発行できる権益
を持つ、ギリシャの国債債務を引き受けることもできるようになる。また、ユー
ロという固定相場から自由になることにより、中央銀行が自由に政策金利を設定
できることになる。つまり、ユーロに対して変動相場制に移行して、国内向けの
政策金利を採用できることになる。ドラクマの暴落は、観光産業で経済を維持し
ているギリシャの政策を変えることができるだろう。暴動を起こしているのは、
公務員だと言われている。国民の多くが公務員だと言われている程の「社会主義」
国でもある。暴動を起こしている者たちの鎮圧、増税、年金などの負担増などの
緊縮財政政策が、高いインフレ率が暴動に拍車をかけているのだと言われている。
暴動が収まれば、ドラクマ安で、観光客が増える可能性が高い。
インフレ率を低くするには、中央銀行が金利を高めに誘導する。金融市場が高
い金利を採るようになれば、資本流入が増えるかもしれない。それによって、経
常収支が赤字へと傾く、つまり貿易収支が赤字になるわけだ。経常収支、貿易収
支の赤字は、貯蓄より投資(設備投資)が大きいときに起きる。つまりその国は、
投資が活発だともいえることになる。
インフレ率が高ければ、税収も上がるから早晩財政も安定するのでないかと考え
られる。変動相場制の通貨暴落は、悪いことばかりではない。もっともギリシャ
には輸出が盛んなものはあるのかないのか筆者は知らないからはっきりといいか
ねるが…。
ギリシャの国家債務は、ギシリャが破綻したらEUの金融機関がギリシャ国債を多
く買っていると言われている。それゆえギリシャの破綻を回避し、ユーロ圏に留
めておくのが得策だとEUの首脳が判断するなら、EU「共同債」を発行し、それと
ギリシャ国債をあらかじめスワップしておくべきだろう。そうすればギリシャの
ユーロ圏離脱による金融機関の損失は、多くを防げるかもしれないからである。