このアルバム、この1曲/浦島五月 vol.4

このアルバム、この1曲  浦島五月(文) 2010.4.07

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デビッド・マレイ In a Sentimental Mood

 ライブを聴きたくなる。何度か来日しているようで、このアルバムも日本のD
IWレーベルから、"バラッズ"と並ぶ緊張感の漲るバラード集として出されてい
る。同じメンバーで同時制作の"ディープ・リバー"というアルバムがあり、対極
のようにリラックスしながらもパワフルになっている。
 アルバート・アイラーに連なるフリーでアバンギャルドなロフト・シーンがデ
ビッド・マレイのルーツとされるが、エリントン・ナンバーにシンプルなテーマ
からグイグイと引き込むような魅力はどこか大道芸人の口上を連想させる。これ
も伝統だろうか。バンドはワンホーン・カルテットでデイブ・バレルのピアノが
切れ味よく全体を引き締めている。フレッド・ホプキンス(b)とラルフ・ピータ
ーソン(ds)も刺激されたとみるべきか。
Lovers / David Murray

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ブランフォード・マルサリス Makin' Whoopee

どこか天才肌のデビューが多いトランペッターと比べると、サクスフォンとい
う楽器にはキャリアが求められるのだろうか。弟でトランペッターのウィントン
の陰になることの多い兄ブランフォード・マルサリスだが、デビューから間もな
い時期のこのアルバムでその魅力を充分に発揮している。スタンダード・ナンバ
ー中心の選曲とベースに1910年生のミルト・ヒントンを起用したピアノレス
トリオという編成にブランフォードの仕掛けを感じるが、うまくジェフ・ワッツ
のドラムとかみあってミディアムテンポのブルースに新鮮さを打ち出している。
このベテラン・ベーシストの体力的理由からスタジオ録音のみの収録で、もしラ
イブがあればと、ソニー・ロリンズのビレッジ・バンガードやオーネット・コー
ルマンのゴールデン・サークルを意識させるものがある。80年代という時代の
せいか、それともニュー・オーリンズという土地のせいか、ゆったりとした雰囲
気でいい時間が流れている。
Trio Jeepy / Branford Marsalis

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エルビン・ジョーンズ  The Children, Save The Children

 この息詰まるほどの音の密度が70年代なのだろうか。二本のサックスにピア
ノレスでベースとドラムス、これで1時間半に及ぶ体育会系ライブ演奏は体力勝
負を挑まれているようだ。相変わらずシンバルの多いエルビン・ジョーンズのド
ラムだが、リズムを刻むというよりも、デイヴ・リーブマン(ss)やスティーヴ・
グロスマン(ts)と同じラインに並んでいて、バンドを締めているのはベースのジ
ーン・パーラのようだ。
 この録音の日は、ジョーンズ三兄弟[ハンク(p)、サッド(tp)、エルビン(ds)]
の末弟であるエルビンの45歳の誕生日ということで、ハッピーバースデイのコ
ーラスで一息つくことができる。ライブの行われたライトハウスというのはロス
アンゼルスにあるクラブだそうで、アルバムジャケットには灯台の周りにさかな
達が描かれている。裏面では稲妻の中をウナギも飛んでいる。
Live at the Lighthouse / Elvin Jones

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ジョン・コルトレーン ロシアの子守唄

 まだ田舎にはFMの電波が一局だけしか届かなかった頃、Sバンドの付いた
「ナショナル」のトランジスタラジオから流れてきたのは初めて聴くコルトレー
ンだった。雨の日の午後に延々と続いたのは、40年以上も前の7月に亡くなっ
た彼のメモリアル番組だったのだろうか。短波放送のノイズの波に紛れながらも、
親しみあるメロディと不思議なトーンはトレーンの魅力をアピールしていた。
 マイルスやモンクの下で急成長したプレスティッジ時代、一つの頂点を極めた
アトランティック時代、更なる変貌に向かうインパルス時代、それぞれの時期が
面白いが、このプレスティッジのアルバムはレッド・ガーランド(p)のトリオ[P.
チェンバース(b)/ A.テイラー(ds)]にコルトレーンが共演する形で、未だ聖な
る世界の扉は開けられてはいない。このカルテットのドラムをフィリー・ジョー
・ジョーンズに入れ替えてマイルス(tp)が加われば、マラソンセッションのオリ
ジナルクインテットになる。
Soul Trane / John Coltrane

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B.B.キング Ain't Gonna Worry My Life Anymore

種の残った二つ割のスイカがギターになって、そこから繋がったワイアは古い
アンプに接続されている。この小汚いアンプを通すとどれほどディープな音が聴
こえてくるのかと想像したが実にうまく裏切られた。ブルースシンガーは何十年
も前からずっと同じことをしている訳ではない。何文何銭の噺が伝統に生きる古
典落語の世界を想ってはいけなかったのだ。
ウエストコースとで録音されたこのアルバムは、ピアノにキャロル・キングとレ
オン・ラッセルをフィーチャーし、更にブラスとストリングスも被せてポピュラ
ーに仕上げられている。ブルースバンドにピアノといえばブギウギだが、Tボー
ン・ウォーカーとオーティス・スパンのコンビとは違ってベースとドラムは時代
をキープしている。アルバムタイトルにあるインディアノーラはB.B.キング
の生地に近いミシシッピの街でメンフィスに赴くまで数年を過ごしたそうだ。
Indianola Mississippi Seeds / B.B.King

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パティ・スミス free Money

 初めてパティ・スミスのことを知ったのは、「人気写真家ロバート・メイプル
ソープのルームメイト」としてだった。どうしてルームメイトなのか、その後8
9年にメイプルソープがエイズで亡くなり、彼がゲイであったことが報道されて
分かった。パティ・スミスの曲を聴いたのもずっと後で、アンダーグラウンドな
パンクロックがコマーシャル・ベースに乗ってからのことだった。ニューヨーク
・パンクの女王はその時代とともに語られるべきだが、私にとってはメイプルソ
ープのシュールでフリーキーなモデルであり、このアルバムジャケットが彼女の
全てだった。
 ドアーズやボブ・ディランのファンで、詩のパフォーマンスからロックシンガ
ーに転進した彼女のキャリアはアルバムタイトル曲に窺がえるが、言語に鈍感な
者には分り辛い。パンクはインテリバンドの印象が強く、心情をストレートに表
現するものではない。彼女のメジャーデビューも29歳と遅く、60年代のロッ
クシーンを外側から見てきたのだ。
Horses / Patti Smith