岡崎凛のjazz CD Review

岡崎凛のJass CD Review  岡崎凛(文) 2010.6.25

greatjazztrio1.jpggreatjazztrio2.jpg

GREAT JAZZ TRIO/ Live At TheVillage Vanguard (1977)/Hank Jones (piano), Ron Carter (bass), Tony Williams (drums)

 大好きなアルバムである。ジャズを聴き始めた頃にリリース(1977年)された人
気アルバムであり、これを聴いてHank Jonesというピアニストを知った。Tony
WilliamsとRon Carterの人気が非常に高かった頃、日本のEAST WINDレーベルが
手がけたライヴ盤。

LPではVol.1とVol.2の2枚で出ているが、自分の持っているCDは1990年代にこの
2枚を合わせて8曲を収録ししたものだが、その後2枚別々のCDとしても再発売さ
れている。
LPで聴いていたときから思うことだが、1曲目の"Moose The Mooche"でのドラ
ムの音が大きい。あらためて聴くと、突出感が気になる。ドラムが張り出す感じ
のピアノ・トリオの演奏(または録音)が嫌いな人は気に入らないかもしれない
が、もしもTony Williamsのドラムの迫力が楽しめなかったら、彼のファンはが
っかりするはずだ。それにこのアルバムが出た当時は、彼のドラムを聴くのが楽
しくて仕方がなかったから、特にそんなことは考えなかった。彼のドラムソロで
大いに盛り上がった後、今度は2曲目の"Naima"でHank Jonesの繊細なピアノの
音がゆったりと響き始める。いかにもHank Jonesらしいリリシズムに満ちた演奏
は、3曲目の"Favors"でいっそう顕著になる。

この頃聴いたジャズレコードでどれほどのRon Carterのベースを聴いたか分から
ないが、いかにも彼らしい演奏でこのトリオを支え、独特のソロを聴かせる。彼
が作曲した4曲目の"12 + 12"では特に彼のベース・ソロが光っていたと思う。
Tony Williamsのドラムは例によって緩急自在である。彼のドラムをピアノ・ト
リオで聴いたらどうなるかという、ファンの期待を十分満足させるものだろう。
Vol.2に収録されていた後半4曲を聴いて思うのは、いったいどれだけ豊富な音
源から選んでいるのだろうということだった。Vol.1に遜色なく、逆にこちらが
好きだという人もいるだろう。特に7曲目の"Nardis"が素晴らしい。
1977年のジャズ・シーンを切り取ったような印象があり、ミュージシャンの息づ
かい、リスナーの反応に直に触れるようなアルバムである。

追記:2010年5月16日、Hank Jonesがニューヨークで亡くなったというニュース
を、この記事の修正が終わる前に聞いた。享年91歳。テレビで何度も目にしたあ
の笑顔を思い出している。
(2009年10月[2010年6月修正]、岡崎凛)

hancock-river.jpg

Herbie Hancock/ River - The Joni Letters (2007)

 1年ぐらい前から家にある、Herbie Hancockの「River - The Joni Letters」
を聴き直した。初めて聴いたとき、さすがにグラミー賞受賞作だけあって非常に
出来がいいと思ったものの、その後しばらく忘れていたCDだった。しかし、He
rbieのピアノとNora Jonesの歌声がスピーカーから流れ出すと、一音一音が自分
の中に染み入るような気がした。

深まる秋の空気がこの音楽に合っているのか、それとも雑用から開放されて気持
にゆとりがあったためなのか、理由は分からない。とにかく、古い記憶の回路が
突然つながり、いつのまにかこのアルバムの世界にどっぷり浸りこんでいた。
このアルバムもまた、ミュージシャンの静かな戦いが見えるような作品である。
専門的なことは分からないが、過去に読んだ本などでも分かるように、Herbie
Hancockが演奏で特に重視しているのは、音と音の間をどのように使うかという
ことのようだった。ミュージシャンなら誰でも、他の音とのバランスを考えて最
高のタイミングで音を叩き込むように心がけるだろうが、彼のソロを聴いている
と、ぎりぎりまで自分を追い込んで勝負するスリルが伝わる。彼の演奏には、昔
から慄然とさせられる何かがある。それは彼が大切にする宗教と無関係ではない
だろうが、基本的には別問題だろう。

このアルバムには、彼が支配し、大切に育てた世界が存在するかのようだ。手間
隙かけて作られた庭を楽しむように、リスナーは彼の世界を歩き回る。
テーマはジョニ・ミッチェル。カバーアルバムとか、誰々に捧げるアルバムとか、
そんな名のついた作品には何度も失望したが、今回は違った。Joni Mitchell自身
も参加したアルバムの中で、彼は女性ヴォーカルの魅力をそれぞれの歌手ごとに
引き出すだけではなく、自身の音楽史と、長年の親友であるサックス奏者のWay
ne Shorterの音楽史を重ねる。マイルス・デイヴィス・クインテットや彼らのソ
ロアルバムで体験したような、精緻で繊細な世界に再び出会うことができた。
ジョニは昔、もっとあっさりした歌い方をしていたし、声にこれほど重みがあっ
たわけではない。軽やかさは消えたが、自分の歌が生まれたときの自分と向き合
うように歌う彼女は、芸というものが単に体力維持だけで支えられるものではな
いことを感じる。

彼女がどれほど多くのジャズ・ミュージシャンとの関わりを持ってきたかは、自
分の知識ではカバーできないし、調べて書くにはあまりに長くなると思うのでこ
こでは触れないが、このアルバムは、多くのジャズ・ミュージシャンの彼女への
賛辞を込めたものでもあるだろう。
(2009年10月、[修正2010年6月] 岡崎凛)